むかぁし むかしの そのまた ムカッシ の詩


    いつか見た風景


最小で精緻な姿かたち。
燐光、接吻、夢精、震えてる、少年
すぼめる、一つの、白霊の吐く息

じゅういちしごのとき、
はてさて、チューヒィラミチシビー

貫通する額がさかむけている顔面フード
霞む涙目は白糸紡ぐ頬を、寄せては返す

怪呀のほとり、そろそろひとり
自らの面影、真白まな草に 沈む綿簿黒

はてさて、めばえのとき
裁断の意思よなよな怯む


さからわぬこと
うろたえぬこと
いすわる
いなおる

いつか見た風景

詳細感知せぬ下賎の風物芝居
存在蹴散らかす霊感鳩
暗天井に包まれた新天地にて喝采ののろしをあげ
ご満悦な熱狂に騒ぐ、密やかな死に身のモノ現る

さからわぬこと
うろたえぬこと

外周を転げる泡流は
花崗岩の白き脚線美
踏みとどまるかかと、
わずかにいすわる

しぼりこむ減光に
月影がさやかと
いなおる

さからわぬこと
うろたえぬこと


不可侵の困惑にひきずられたまま
ソフィアの声が訊く

照る斜陽に
藍染めの網目紋様に
川底の蛇腹の粉流が
擦りあい響いて
たゆむ流れは、静かに

行き交う陽炎が

平穏、焦燥と 競り合う魚たちの群れが
照り返す流麗のなかに見えている

さからわぬこと
うろたえぬこと


濁音が河原の声が聞こえる

幻視の風景が
いすわる
いなおる

きしにむく
生い立つ木魂が 
影に踊り狂い

神無月の寄る辺に
遠方から響く木霊たちが

樹木の先鋭者らが
木魚を叩く

笛吹き老爺がひとり

赤茶けた薄れ着ずぼんをはいて

しゃがれしずむ枯れ草も
ぼやき ぼやき 踊り狂う

ソフィアの群れたちよ

そのなかに、僕は

    さからわぬこと
    うろたえぬこと
    
    いすわる
    いなおる

静かな沈思に閉じられた眼のなかの
フロントノイズ
 
誰も彼もが耳をそばだたせ
チューヒィラミチシビー
      ワキドキラキラキラシー
       チューヒィラミチシビー
              
この、ゆゆしき声に


誰も彼もが耳をすまして
白と黒の彩色の明かりが
幾歳の時を繰る


    いつか見た風景
 

    幻視


    ソフィアの群れたち
    貫通する額にさかむけた顔面フード

     対岸にしゃがむ夕月が、
     統御せる天界が、
     救い上げる興象を、
     夜空にかざしながら

     こぼれ落ちてくる
     専心のつりがね星。

    上目づかいに女将騎兵、山よもや

    臨戦突き破る幾十万もの兵たちが
    なだれおち


    さからわぬこと
    うろたえぬこと
    
    いすわる
    いなおる



      ソフィアの群れたち
      静穏にこだます
      陥落、決壊、損傷、
      裂ける肌


    残月 ぽつり 陰り ……やがて消えていく


                 2006