「自由」が死にかけている!秘密保護法のすべて(6)〜田島泰彦上智大学教授
  |クローズアップ 2015年4月14日09:34   NETIBより


<秘密保護法の次に何が提案されようとしているか>

 ――言論の統制や表現の規制への方向として、具体的には何が懸念されるのか。

 田島 秘密保護法ができた後に、何が待ち構えているのか。秘密保護法後、想定されている、あるいは提起されている動きは、すでに述べたように私が危機感をあおっているだけならまだいいが、すでに具体的に準備されている。

児童ポルノ法改正と青少年健全育成基本法案>

 田島 第1に、表現規制、言論規制、メディア統制の提案が予定されている。
 秘密保護法で、情報の統制について基本的枠組みができた。それをベースに、情報のコントロール、規制をもっとやろうと準備しているのは、どういう方向から準備されているかというと、4〜5つある。言論、表現のダイレクトな取り締まりは、いろいろな理由をつけて、あからさまではなく治安的観点とか、あるいは政権の思惑を踏まえたかたちとか、いくつかに分かれる。

 まず、青少年保護を名目として、いろいろな規制がなされていく。青少年保護と言うと社会が思考停止してしまう。しかし、内容をよく吟味すると、子どもたちを保護するよりも、今の政権にとってよからぬ表現を規制するのが本質だったりする。
 たとえば、児童ポルノ法改正が2014年6月に成立した。ミソは何か――。1999年旧法でやりたかったが、やれなかったことが2つある。1つは、児童ポルノ保有するという単純所持だけで犯罪とし処罰すること、もう1つは、漫画、創作物の規制だ。この2つが従来除かれていた。子どもの性的虐待、人権侵害から保護するのが法益なので、存在するその人が写っていない物は規制の対象にならない。漫画というのは、性的虐待や人権侵害の対象者は架空の創作物なので、児童ポルノの対象にならないはずだが、規制当局は規制したい。東京都が青少年条例でやろうとして反対にあった。そこで、青少年という年齢規制をやめて漫画規制だけが残った。それを今回の児童ポルノ法改正により国でやろうとしたかったのだが、いかんせん漫画家や表現者の反対が強いこともありこの漫画規制は降ろして、単純所持罪だけを入れた。単純所持には問題があり、冤罪になる可能性や、謀略で勝手に送りつけられる恐れもある。民主党は寝返って、自民党と一緒に一気に成立させてしまった。
 もう1つは、青少年健全育成基本法案を準備中。これは基本法なので、大きな枠組みで漫画が入ってくると危惧している。

<人種差別撤廃法案に潜む表現規制の危険>

 田島 次は、人権差別を理由として、表現活動を規制していく。一番は人権擁護法案というやり方だが、メディアも規制対象に入れるというので批判が出てくる。政府は本当はやりたい。裁判所とは別に、行政機関に新たな人権救済の仕組みをつくりたい。人権侵害の対象として、表現活動もメディアも入れている。民主党政権末期に、新たな行政機関をつくる人権委員会設置法案が出されて、1回も審議されずに廃案になった。これを本当にやりたいが、反対が強くてすぐには無理なので、今準備されているのは人種差別撤廃法案。そのなかに、差別助長行為を禁止対象にすることが入っている。ある特定の人に向けた人権侵害の表現行為を規制するだけでなく、相手が特定されない不特定多数に差別を助長するような表現も禁止の対象にするもので、ヘイトスピーチという大変な問題を何とかするということと関わらせて、提案が進んでいる。自民党も賛成の方向に進みそうだ。つくってしまう可能性があり、心配している。

 デモ規制というダイレクトな規制を当面しないと言われているが、政府は、本当はつくりたい。自民党石破茂元幹事長はデモをテロだとブログで書いて強く批判されたが、ある政治家たちは、とくに自民党の政治家は、かなり共通の認識を持っている。秘密保護法反対や原発反対の国民が国会周辺でデモや声を上げるのが嫌で嫌で仕方ない、何とかしてデモそのものを叩き潰したいという思いがある。だから、おそらく何かの機会があれば出してくる。現行法としては1回も活用されていないが、国会周辺での静穏保持のための規制法はすでにあるのに、輪をかけてつくろうとしている。
 これらは、ほんの一部だが、次々に出てくる。

(つづく)
【山本 弘之】


「自由」が死にかけている!秘密保護法のすべて(7)〜田島泰彦上智大学教授

|クローズアップ 2015年4月15日07:00   NETIBより



<盗聴法改正、市民監視の強化の検討が進む>

 ――言論、表現の自由の規制以外にどのようなことが検討されているのか。

 田島 第2は、市民に関するかなりダイレクトな監視だ。
 盗聴法改正して、盗聴できる対象を広く取るという話だ。法務省の役人によれば、振り込め詐欺とか現代型犯罪に対処できないという。児童ポルノも盗聴対象に入っている。また、今はNTTなどの通信事業者が盗聴場面に立ち会わないといけない。警察職員がNTTに行って、NTT職員の立ち合いで盗聴している。これを立ち会いなしにできるように、警察だけでできるようにしようとしている。法制審の結論が出て、通常国会に改正法案が出てくる。すぐに出さないが、法制審特別部会で、電話盗聴だけでは不十分で、室内盗聴もやるべきだという意見が出ている。
 さらに、盗聴法の対象は「現在進行中」のもので、ネットやメールなどは送り出すと同時に届き終わっているものなので、法律の規制対象ではないと判断する一方、メールなどの通信の保存を全て義務付けるべきだと自民党レベルでは合意している。犯罪に関わっているかどうか関係なくすべてのメールの保存を義務付けて、何かあったら利用することを考えている。

 現在、3.11で通信履歴の新しい仕組みがすでにできている。大変な大震災と原発事故で、コンピュータ監視法ができた。法務省が震災で不確かな情報が横行しているのでチェックする必要があるというのを理由にして、犯罪に関連する通信履歴を特定して、60日間、捜査機関がプロバイダーなどの通信事業者に対し、通信履歴の保全を要請することができることにした。注意すべきなのは、限定が2つあって、(1)保全要請は、犯罪に関する履歴であること、(2)保全の要請であって義務付けるものではないということ、である。これに対し、犯罪に限らず、全部の履歴の保全が必要だとし、また履歴の保存は要請ではなく法律上の義務にしようというのが今の動きだ。これは正真正銘の市民監視だ。

 実際には、盗聴してみないと、犯罪に関係あるかわからない。聴いてみて犯罪に関係なければ切ることになっている。マークされた人だけが対象になるかわからない。令状で絞るが、怪しそうだというだけで対象になる。市民には関係ないとは言えない。
 さしあたりは、プロフェッショナルな犯罪だけだが、将来的には盗聴の網の目が数段広がる可能性がある。プライバシーの重要な部分に法の網を拡大して規制を強めようとしている。
 一方で街頭では監視カメラがのべつまくなし設置されており、今の監視カメラはただの監視カメラではなくて、怪しいと思われる人物のデータベースと監視カメラを顔認証で直結させるというシステムが普遍化すると、ピンポイントで特定できる。そういうことを考えると市民を監視できるメカニズムが確立していく。


東京オリンピック――テロ対策を口実に共謀罪狙う>

 田島 第3に、我々が注意しなければいけないのは2020年東京オリンピックだ。東京オリンピックに反対だという政党はどこにもない、共産党だって反対だと言っていない。メディアもみんな賛成。いろいろあるがオリンピックはいいことだ、日本を元気づけましょうという方向に行っている。そこで、「間違ってもテロがあっては困る」という考えから、テロが起きるのを未然に押さえたい、テロが起きたら最悪なので起こる前に止める仕組みが必要だという話になる。

 そこで出てくるのが、1つは共謀罪だ。これまで法務省共謀罪を3回ほど国会に出そうとしてきたが、最後のチャンスだと狙っている。犯罪行為の終わった後に逮捕するのでは、後の祭りだとして、犯罪行為の合意があっただけで犯罪にする。本人と1人以上が合意すればいい、合意があっただけで行為もないのに処罰する。大変なことだ。
 合意というのは、目と目で合図しても合意になる。別に文書にして判子を押さなくても合意は成立する。合意は、共同正犯となり、目と目で合図しても成立する。共謀罪の対象になるのは、600以上の犯罪が予定されている。コミュニケーションそのものが犯罪の対象になる。いきなり合意を取るわけではないので、心の中で思っているから言葉に出すので、心の中と直結する問題だ。心の中に事実上踏み込んでいる。人間の心や表現を規制していく。非常に乱暴なもので、自由なコミュニケーションが犯罪の対象になってしまう。これまでに、共謀罪は、3回提案してうまくいかなかった。おそらく彼らにとって最後のチャンスだ。東京オリンピックのテロを回避すると掲げたら成立できると彼らは踏んでいると、私は思っている。日弁連も反対しているので、そんなに簡単にいくと思わないが、オリンピックの追い風を受けて、行きかねない。

 もう1つは、テロを根絶やしにするには資産を凍結するのが1番だとして資産凍結法案が用意されている。外為法で海外への送金は凍結できる。欠けているのは国内だということで進められている(昨年の国会で可決成立した)。
 そこで問題になっているのは、テロリストを誰が決めるか。すでに国連安保理でテロリストを指定する仕組みがあり、国内で追加して対象を広げることは可能になっている。国家公安委員会が指定する。テロ予備軍という考えをしていく恐れがある。すでに公安警察イスラム系外国人に対して広く網をかけてテロリスト扱いした捜査記録が流出してしまった。テロリストの限定は、本人がテロと無関係だと考えていても、警察がテロリストかどうか考えるわけだから、普通の善良な市民もテロリスト扱いされる可能性がある。市民が関係ないわけではない。石破茂自民党幹事長は、デモもテロリストだと言っている。もし指定を受けたら送金もできない。9.11直後、外国の話だが、イスラム系の名前だというだけで空港で止められ何日も拘束された。
 オリンピックは、いろいろな問題が起きる機会になる。治安関係にとっては滅多にないチャンスと考えている。

 共謀罪という新しい犯罪類型ができたらどういうことが起きるか。共謀罪という犯罪を摘発するには、共謀があったと認定するためにひそかに話したり合意したかどうかチェックが必要になる。そのためには盗聴が不可欠だ、室内盗聴も必要となる。合意があったかどうかを確実にするために組織内部にスパイを送り込んで摘発できるようにする。さらには、盗聴法と並んで、司法取引という捜査手法が現実化されようとしている。送り込んで捕まった人は外形的に犯罪行為に加担したにもかかわらず、正当な理由があったとして処罰に問われないようにするためだ。本来は、取り調べの全面可視化テーマだったのに、数%という裁判員裁判に限定され、非常に不十分な一方で、司法取引という非常に問題ある捜査手法が導入されようとしている。おそろしい話で、戦前のような話だ。