「自由」が死にかけている!秘密保護法のすべて(8)〜田島泰彦上智大学教授
|クローズアップ 2015年4月16日10:15   NETIBより



憲法次元で人権の制約へ>

 田島 第4が、個別立法レベルではなく、憲法次元で表現とか言論に制約、制限を置く方向に立ち至っている。自民党、とくに安倍晋三首相が将来の目標として考えている。
 最後の最後に、国の民主主義や国民の自由を保障する枠組みは憲法だと思う。言論の自由表現の自由は、憲法21条で確保されている。そういう人権、人権の一部である表現の自由は、権力者であっても侵害してはいけないと規定している。大事な自由を国家が恣意的に干渉介入してはいけないと、何の限定なしに明確に保障している。
 自民党は野党だった2012年、憲法改正草案で、自衛隊を軍隊として明記するほか、自由や人権を無条件で保障すべきではなく、ある枠のなかでしか認められないと明確に打ち出した。「公益及び公の秩序」という範囲でしか認めない。「公益及び公の秩序」に違反した場合は、人権、自由を認めない。自由、人権は条件付きのものだというと、戦前の明治憲法の自由人権が「法律の範囲内」でしか認められなかったのと同じ考えだ。それを克服して、日本国憲法は人類普遍の権利として明確に定め、表現の自由憲法21条で保障した。

 ところが、人権そのものが制限付きだとなると、表現の自由も制限付きになる。自民党草案が、人権に制限する規定を置くだけではなくて、表現の自由についてわざわざ新たに項目をつくって、「公益及び公の秩序」に反するものは法益、保護の対象ではないという規定を入れた。
 憲法のもとで生きる者として、明治憲法の規定に戻るような提案を有力な政党が提案するとは考えられなかった。しかも、自衛軍を明記する。同時に、軍事機密を法律で書くということも併せて憲法草案の規定のなかに入れている。秘密保護法があるうえに、軍事機密に特化した、あるいは重罰を強化した軍事機密法制化を定め、憲法上の要請にする。併せて裁判を、普通の裁判ではまどろっこしいので、審判所という軍法会議を設置する。そこまで書いている。秘密保護法違反で、軍事が関われば普通の裁判所でなくて軍法会議でやることが想定されているとも思わざるを得ない。公開の法廷の必要はなく、漏洩された秘密そのものが何か明らかにする必要がない。そういうことが、憲法の次元で想定されるところまできている。

 戦前に戻るような改変だ。もともと人権は、権力を持った人も制限、侵害することができないとし、権力を縛るのが憲法の重要な考えだ。人権が拘束を受ける範囲を設けることは、権力を拘束する機能を掘り崩してしまう。そのような内容を憲法改正案のなかで堂々と掲げている。権力を縛る憲法が人権を規制してしまうという、本来の立憲主義からかけ離れていると言わざるを得ない。そういうことをやろうとしている。
 まさに秘密保護法が「公益及び公の秩序の範囲内」という考え方を体現する立法措置だ。基本的に権力を縛る発想と違う発想が如実に反映している。安倍内閣は、そういう精神に基づいていろいろな法律をつくっている。それを、「大事な価値から守る」と、問題をすり替えている。自民党憲法改正草案の内容で憲法法を改正すれば、「公益、公の秩序」という“魔法の杖”を持つことになる。


安倍内閣とメディアとの関係>

 ――安倍内閣のメディアコントロールは…。

 田島 我が国のメディアがどんな状態になっていて、とくに安倍政権のもとで何がされようとしているかについて、最後に話したい。

 安倍首相とメディアは、非常に強い因縁がある。第1次安倍内閣がなぜ短命だったか。いろいろな要因があったが、世論の操縦ができなかった。メディアが警戒して、対処した。世論をどうにかしなければいけないという思いが安倍首相にはある。規制するだけでなく、応援する世論をつくらなければいけない、あるいは人間の頭自身を、安倍的な考えを受け入れる人間につくりあげていく。そのため教育問題も重視している。
 また、2000年、NHK番組改変問題が起きて、自民党中川昭一衆院議員(当時)がNHKの番組づくりにプレッシャーを与えて、かなり成功した。中正公平と言っているが、そういう上品なものではなく激烈に、一面的だ、番組を何とかしろとプレッシャーを与えた。しかし、このときは、部分的で個別的な問題なので、メディア全体を変えることにならない。
 この2つがあって、今の第2次安倍内閣は、メディアをどうするかが重要なテーマだ。

 さしあたっての方法は、安倍的なカラー、安倍的な方向で、1つは、有力メディアのNHKをコントロールできないか。コントロールする一番の方法は、NHKのトップに自分に近い考えの人間を入れることだ。
 そこで、会長は経営委員会から選ばれるので、安倍さんが百田尚樹さん、長谷川三千子さんなどを経営委員を送り込んだ。そういうなかで、籾井勝人会長が誕生した。BBCの元会長が、「公共放送は政府が言っていることをそのまま放送したら公共放送になりません」と発言していたが、籾井会長の「政権が右と言ったら左と言うわけにはいきません」というやり方は公共放送ではない。それに加えて、NHKの国際放送には、総務大臣が要請できる制度があると、高市早苗大臣が就任会見でプレッシャーを与えた。まだ要請したわけではないが、その趣旨は、国境をめぐる問題は極めて重要なので、日本政府の立場からもっと「国益を重視してやれ」と言いたいのは明らかだ。
 2つ目が、朝日新聞への攻撃だ。朝日新聞の報道内容が常にいいわけではないが、安倍首相はNHK番組改変の際にも示されているように、朝日新聞をよく思っていない。朝日新聞を叩く材料として、従軍慰安婦の吉田証言の報道と池上さんのコラム掲載拒否、福島第一原発の吉田所長調書の報道をきっかけにして、いろんな理由をつけて、従軍慰安婦というのは軍や政府が強制したものではないという歴史修正主義の方向に変えたい、原発批判的なメディアを叩きたいという強烈な思いを持って言論を叩いた。

 こういう事態を想定してどうするのか。このままでいいのか、僕自身にも、他の人にも問わないといけない。自由、人権、表現の自由がやせ細っていって、我々が幸福な社会になれるのか。困難な、相手は強敵だが、本来持たなければいけない人間としての自由、人権、情報だって政治家や役人が私物化するのではなく我々のものだから、本来のあり方を回復し、取り戻すことが、困難があってもやっていくべきことが次の世代に向けて、私たちがやるべきことだ。我々の社会はずっと続いていくわけだから、今が良ければいいだけではなく、次の世代に自由や人権、表現の自由を託さないといけない。

(了)
【山本 弘之】

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<プロフィール>
田島泰彦上智大学教授田島 泰彦(たじま・やすひこ)
上智大学文学部新聞学科教授(憲法・情報メディア法)。著書に、『人権化表現の自由か』(日本評論社)、『この国に言論の自由はあるのか』(岩波書店)、編著に、『別冊法学セミナー 秘密保護法とその先にあるもの 憲法秩序と市民社会の危機』(日本評論社)、『調査報道がジャーナリズムを変える』(花伝社)など。