「自由」が死にかけている!秘密保護法のすべて(1)〜(6)

   「自由」が死にかけている!秘密保護法のすべて(1)〜(6)


  特定秘密保護法の国会監視体制がスタートする一方、司法改革の一環で司法取引の導入とともに盗聴法の強化が進もうとしている。主権者国民が国家の意思決定過程を「知る権利」を停止するような「新しい局面に入った」と言われる秘密保護法施行から4カ月。憲法と情報メディア法の第一人者、田島泰彦上智大学教授は「オオカミ少年ならまだいい。自由、人権が次々規制されようとしている」と警告する。秘密保護法後も押し寄せる、自由や人権の規制、市民生活との関わりについて、秘密保護法に関する“全貌”を聞いた。(聞き手・山本 弘之)

 (1)2015年4月7日09:19

<秘密保護法ができた背景>

 ――秘密保護法が2014年12月10日施行された。秘密保護法ができた背景に何があるのか。

田島泰彦上智大学教授 田島 秘密保護法ができた背景には、いくつかポイントがあった。
 戦後、憲法で自由で民主的な社会が形成された。国の秘密の扱いは、公務員に守秘義務を課して守っていく構造により形成され、軍事的秘密は別として、職務上知り得た秘密を漏らしてはいけない、漏らした場合の刑罰は1年の懲役という、かなりつつましやかな仕組みだった。
 統治する側は、これでは不十分だ、一人前の国じゃないとして、限られた公務員だけでなく、国民に秘密保護を義務付け、厳罰で規制する新しい枠組みが必要だと考えて、漏らすこと、探ること、他国に通報することを対象にして、国民に秘密保護の義務を課すようにしようとしてきた。その象徴的な出来事が、1980年代半ばの国家秘密法案だった。外国通報の罪には死刑まで予定されていた。スパイ防止を目的にしているが、正当な取材や自由への過剰な規制だと批判が起きた。そこで、役人を中心として「反省してやめます」ではなく、「うまくいかなかったから次はうまくやるぞ」と教訓化した。

<従来から秘密保護の仕組みはあった>

 田島 日本は、従来から秘密保護の仕組みはあった。秘密を保護する「法がないから」というが、すでに秘密を保護する法律が二重三重にある。まず、先ほど述べたように守秘義務で国の情報すべてをカバーして守られている。しかも、2001年9月11日の「9.11テロ」をきっかけに、防衛領域では新しい枠組みができた。すでに過剰な秘密保護の仕組みがあり、情報公開の方向へ、むしろ縮小的に変えないといけなかった。今までの仕組みで立ち行かなくなった事態は生じてもいないのに、なぜ秘密保護をプラスする必要があるのか。国家秘密が漏れて国の存在が危うくなるような国家秘密が漏れたという話はない。秘密保護法を新たにつくる必要がなく、廃止する必要がある。拡大すべきは、情報公開法であり、こちらをもっと広げることが大事だ。独裁国は別として、それが世界の大きな流れだ。日本は自由で民主主義の国を標榜している国ではなくなっている。「国の情報全部が秘密ではない」というつもりはないが、秘密が先ではない。現代民主主義の方向が違う。国の情報は国民の共有財産であり原則公開が先で、次の問題が、全部出していいわけではないので必要最小限の秘密に限定して保護する。秘密をできるだけ少なくして抑制的に絞っていく。他方で、情報公開は広げていくべきだ。米国、英国は強力な秘密保護を限定的にし、少なくしている。逆に、たとえばサッチャー政権の時に情報公開法をつくった。

 秘密保護法と情報公開法の枠組みを比べると、どういうことが言えるか。秘密保護法は、特定秘密といって保護対象として、国の情報を漏らしたりしたら刑罰を科す。情報公開法は、原則公開で、例外として出さなくてもいいカテゴリーの情報がある。どちらが優先されるか。国にとっては、秘密保護法を飛び越えて情報公開が優先することは難しい。事実上情報公開法は機能を停止せざるを得ない。政府は「両立する」と言っているが、国家の秘密が刑罰を持って守られているのに、情報公開が機能するわけがない。
 秘密保護の仕組みは前のめりになる特性がある。次は、秘密を取り扱う公務員の管理も必要でしょう、となるだろう。秘密は増殖していき、秘密保護が拡大し、秘密が出てこない状態になる。特定秘密に指定しないで、秘密にしておいたまま、特定秘密ではないので公文書館にも情報がいかず、一定の期間が過ぎたら処分してしまう恐れがある。今でもそうやっているのを、拡大していける。それを行政の長の一存で決められ、限定がない。
 メディアにとっては、内部告発は大きな手掛かりになる「一縷の望み」なのに、内部告発を少なくする効果がある。しかも、漏らせば確実に懲役刑しかない。お上が許容する範囲の情報しか出てこなくなる。カスしか出てこない。メディアは言論機関だ。共有する情報がなくて、立場だけで「右だ、左だ」と言っても議論にならない。秘密保護法ができた後、表現規制、言論規制、メディア統制の提案が予定されている。NHKへの統制、朝日新聞への攻撃が起きており、このままでは、自由、人権、表現の自由が狭まっていく。

<新しい局面に入った>

 田島 秘密保護法制は、統治する側がずっと狙ってきたものだが、今回の秘密保護法の特徴は、昔の内容と違って、新しい局面に入ったことだ。

 今回の秘密保護法の直接のきっかけは、尖閣諸島での中国漁船の海上保安庁の映像流出で、民主党政権下で秘密保全の法制化が進められた。しかし、今回につながる枠組みと扱いにつながるレールは、第1次安倍政権末期で敷かれたものだ。2007年、防諜(カウンターインテリジェンス)機能の強化を閣議決定した。具体的に何をしたのか。
 01年の9.11後、公務員の守秘義務の対象である国家秘密のなかに格差をつけ、防衛秘密だけ特別扱いにしていたのを、07年の閣議決定では、1つは、普通の秘密と重要なものに格差をつけて、重要なものを特別管理秘密とした。その数は30万〜40万件あるとされている。
 もう1つは、公務員の選別をしましょうと、適格性確認制度を導入した。対象5万〜6万人で、本人の同意もない。いずれも導入されたが、法律をつくったわけではなかった。08年、09年には、秘密保全法制の検討チーム、有識者会議をつくり、報告書を出したが、情報開示を求めても、出た資料は黒塗りで中身はわからない。
 第1次安倍内閣の最後に進んだのは3つあり、(1)防諜自体が、敵を前提にし、敵と事を構えることを前提にする、(2)秘密保護を守る組織をつくる、CIAやMI5、MI6という諜報、防諜組織をつくっていく、(3)これらとセットになって、07年、日米包括的軍事情報保護協定(GSOMIA)を結び、日米が相互に共有した情報の扱い、提供を受けた情報の扱いをめぐって協定を結んだ。これを背景にして、カウンターインテリジェンスの仕組みが進むという関係でもある。
 このように第1次安倍内閣で、新しい枠組みが求められるようになった。



(2)2015年4月8日07:00

<秘密保護法の特徴――秘密の増殖、情報を秘匿する枠組みが増殖>

 ――秘密保護法の特徴をお聞かせください。

 田島 秘密保護法は、以前に検討された秘密保護法制とどこが違っているのか。秘密保護が拡張・強化された。以前は、制裁・処罰の対象は、公務員が漏らすことを処罰するのが中心だったが、今回、2つの点で新しい特徴を持つ。
 1つは、漏らすことを厳罰で処罰するだけでなく、漏らす前の段階で規制しようと、取得する段階でも処罰する。
 もう1つは、以前の規制のやり方は、よからぬことがあったときに刑罰で対処するものだったが、漏らす前に秘密を取り扱う人が妥当かチェックしましょうという適正評価制度をつくった。これは、すでに実際にやっていることを法律で追認したものだ。

 普通の市民にとって、秘密保護法は「ダイレクトに関わるのではない」「ピンとこない」と思ったら大変なことになる。公務員を規制の中心にしていた従来の仕組みから変わって、秘密保護法では、市民が規制の対象とされている。これは市民社会にとって重大な意味を持つ。入手する段階で誰が対象になるかといえば、ジャーナリストだけでなく、市民運動や調査活動も対象になる。漏らしたり取得を働きかける行為も厳罰で処罰することが規定され、共謀、扇動、教唆も刑罰の対象になっている。「大事な情報を持っているんじゃないですか?国民に明らかにすべきではないか」と働きかける行為も対象となる。

田島泰彦上智大学教授 以前は国家秘密の中の何が対象だったかと言えば、基本は防衛と外交だった。1980年代の国家秘密保護法案は、基本は防衛秘密で、それに関わる外交が秘密の対象だった。今回は、テロ防止、警察が取り扱っている情報、公安・外事警察が扱っている情報が「国家秘密中の秘密」と肩を並べている。原発がテロの対象になったら大変なので、原発に関する情報がテロ防止の秘密になる。市民と無縁に思えるが、テロリストと名札を下げているテロリストはいないので、対象はテロ予備軍で、警察が対象だとみなせば一般市民が対象になる。これまでも公安警察の対象というのは、普通の市民も対象に入っている。

 これらから明らかなのは、昔から提起された秘密保護のやり方とは違う局面が生じていることだ。一言で言うと、秘密をどんどん増殖して、我々国民が知らなければいけない大事な国の情報が秘匿され、「知る権利」が満たされない枠組みが一気に増殖した。秘密国家体制の土台ができてしまう。

<国のチェックのメカニズムは機能しない>

 田島 政府は、チェックの仕組みがあるから恣意的な運用や濫用はないと言う。たとえば、恣意的な秘密の指定や運用をチェックする仕組みを備えているとして、行政内部にいくつかのメカニズムが用意され、国会でもチェックする仕組みが国会法改正でできたが、本当に機能するのか。チェック機能が働くためには、第三者性に担保されるかたちでなければいけない。
 行政内部のチェックの仕組みは主に3つ用意されている。(1)情報保全諮問会議、(2)独立公文書管理官と、その下の情報保全観察室、(3)保全監視委員会、だ。
 情報保全諮問会議は、確かに外部の構成委員による第三者で、読売新聞主筆渡辺恒雄氏、清水勉弁護士らで構成されている。だが、運用基準をつくったり改訂したり、運用状況について意見を言うことができるという仕組みで、秘密そのものの決定権はない。秘密の実態、秘密の指定に恣意的濫用があるかないかタッチできる権限は一切ない。秘密そのものを見ることできないし、秘密の指定に関与できない。秘密そのものの本体が見ることができないので、チェック機能にほとんど意味がない。ほかの2つは、行政内部の仕組みで、第三者性、独立性がない。身内の者が身内をチェックすることはできない。秘密の指定は、行政機関の長、大臣だ。自分の省のトップが指定したものを、役人がチェックすることはできない。一番有効性がありそうなのは独立公文書管理官だが、秘密を出してくれといっても出す仕組みは用意されていないので、恣意的な秘密指定を抑制することはできない。

 国会のチェックの仕組みとして、国会法を改正して、衆参両院に情報監視審査会を設置した。メンバーは、国会の議席数に比例して8名。だいたい5人は与党で、野党が3人。与党の議員は、自分たちの同輩が大臣をやっている。それを仲間がケチをつけることができるか。事実上難しい。審査会に、肝心要の秘密が自動的に出てくるかと言えば、行政機関の責任者が我が国の安全に重大な支障があると判断したら情報を出さない規定になっている。強制力がない。情報そのものが出ないで、恣意的になっているかどうか判断できるわけがない。出たとしても、非公開の秘密会で、公表しない。闇の中だ。委員が情報をみても、秘書にも、自分の党には、誰にも話せない。外に出したら、10年以下の懲役。行政府がひた隠しにした秘密を、国会もいっしょになって秘匿することになりかねない。秘匿の運命共同体ができる。これでは、三権分立にならない。

 情報監視審査会をつくる国会法改正には、重大な問題があった。附則3で、新たな対外的な情報機関をつくるとした。日本版の本格的な諜報機関をつくる。日本版CIA、日本版NSAまで設置することを宣言した。もし、日本版諜報機関ができたら、審査会のあり方についても再検討が必要だという趣旨のことを書き込んだ。新聞報道はほとんど無視して報道していない。国会が監視する仕組みをつくるのに乗じて、CIAやNSAのような新たな秘密諜報機関をつくると宣言した。
 秘密諜報機関は、存在自体が秘密の塊だし、違法なことをやっている。CIAは、外国で諜報活動をやり、米国にとってよくない政権の要人の暗殺指令までやっていた。諜報機関をつくるということを日本で法律の中に書いたのは初めてだ。
 実は、日本版CIAや本格的な諜報機関設置の動きは今に始まったことではない。自民党の秘密保護法プロジェクトチーム座長だった町村信孝衆院議員は何を考えてきたか。「秘密保護法よりも諜報機関が先」とずっと言ってきた。安倍首相は、第1次安倍内閣ができた時、首相になる前に「日本版CIAをつくるべきだ」と公言していた。安倍さん自身が諜報機関構想を積極的に考えていた。日本版CIAというのは、ある保守的な考えを持つ人たちの間で念願の1つだ。それが国会法改正の付則でささやかだが、堂々と触れた。第1次安倍内閣カウンターインテリジェンスとして構想された方向には、手足となる機関が必要とされていた。おそらく将来、本格的な諜報機関をどうするかという議論が出てくるので、注意が必要だ。



(3)2015年4月9日07:02

<自由と人権、我が国の向かう方向、秘密保護法は出発点>

 ――秘密保護法ができた後の今後の問題点は何か。

 田島 今でも秘密は外に出ないのだから、秘密だらけの完璧な秘密保護の体制ができたら、情報自体がさらにもっと出ない。表現の自由、情報のあり方をめぐって市民の監視、自由、人権に影響をもたらす規定が次々提起されている。秘密保護法の制定は出発点だ。秘密保護法だけを考えればいい状況ではない。行きつく先は、憲法を改正する、表現の自由を制限することが安倍内閣で検討されている。

fukei_tokai 秘密保護法だけでも大変な状況が我々の社会に生まれるわけだが、秘密保護法で終わりでなく、秘密保護法ができた後の我々の社会、我々にとって大事な言論の自由表現の自由、プライバシーを含む人権がどうなるのか考えたい。話していて、私自身が嫌になるが、むしろこれから、我々の自由、人権を次から次に規制する取り組みが、今の政権のもとでやられようとしている。私がオオカミ少年だったらまだいい。実態がないのに「心配だ」と危機感をあおっているだけだったらまだ救われるが、そうでない状況になっている。

 まず、我々の国全体の向かう方向が、自由と人権に深くかかわって、どういう方向に進もうとしているか。かなり本格的に戦争ができる方向に向かっている。ただちに戦争するかどうかは別として、確実に戦争に向かっていく国、戦争できる条件を備える、構築する方向は残念ながら間違いない。戦争をするとなると、誰が戦争するか、当然軍隊だ。そのため軍事力を強化することになるし、軍隊だけを強くするだけでは戦争はできないので、戦争への批判や抵抗が起きるので押さえつけないといけないため、言論の統制や市民に対する監視を強めていくという流れになると、私は思っている。

集団的自衛権――日本の国のあり方を180度変える決定>

 田島 集団的自衛権行使を容認する閣議決定は、憲法の重要な解釈を国会の議論を経ないで内閣で変更を決めてしまうという乱暴なやり方だった。
 自分の国が攻撃されたり侵略されたときに個別的自衛権を行使するのは軍隊だが、日本は憲法9条で軍隊を持たないと決めたなかで、自衛隊が発足し、自衛隊そのものが憲法9条で問題があるという議論がずっとされてきた。しかし、「自分の国を守るためだけの実力行使」という自衛隊だから、海を越えていくという論理は出てこない。自衛隊ができた1954年、参議院の全会一致の決議で、海外に出さないということを決議した。自分の国を守るという個別的自衛権の行使だって、海を越えて自衛隊を出さないということが、自民党から共産党まで全会一致で合意されている。しかし、2004年のイラク問題で、人道復興支援のため非戦闘地域で活動することまで進んでいた。
 個別的自衛権そのものにも問題があるが、集団的自衛権は、自分の国ではなく、同盟国が攻撃されたときにも自国への攻撃とみなして“自衛”として相手を攻撃することを可能にする。これは、日本の国のあり方を180度変える決定だと言っていい。自分の国が攻撃されていないのに戦争できる条件ができた。もちろん、いろいろな法律の改正が必要だが、そういう方向に向かっている。

 昔は、9条のもとで自衛隊自体が問題だったし、集団的自衛権は9条に反して許されないというのが当たり前の状況だった。たとえば、その1つの証として、武器輸出禁止3原則があった。9条の理念からいったら当然で、戦争をむやみやたらにやってはいけないという1つの証だった。武器輸出禁止の3原則を変えて、新たに防衛装備輸出3原則をつくった。武器輸出は原則禁止だったのを、原則輸出してよろしい、だけどダメなところはあると、原則と例外が大転換された。
 まだ中間報告の段階だが、日米防衛協力の指針(ガイドライン)を改定する作業が進められている。今は、周辺事態という限られたところで日米が軍事的な協力を進めるという、周辺事態というかなりあいまいだが「地域限定」で、地球の裏側まで自衛隊を派遣していいよという話ではなかったが、中間報告で限定を外す方向で進められようとしている。


<秘密保護法の次に何が提案されようとしているか>

 ――言論の統制や表現の規制への方向として、具体的には何が懸念されるのか。

 田島 秘密保護法ができた後に、何が待ち構えているのか。秘密保護法後、想定されている、あるいは提起されている動きは、すでに述べたように私が危機感をあおっているだけならまだいいが、すでに具体的に準備されている。

児童ポルノ法改正と青少年健全育成基本法案>

hito_img 田島 第1に、表現規制、言論規制、メディア統制の提案が予定されている。
 秘密保護法で、情報の統制について基本的枠組みができた。それをベースに、情報のコントロール、規制をもっとやろうと準備しているのは、どういう方向から準備されているかというと、4〜5つある。言論、表現のダイレクトな取り締まりは、いろいろな理由をつけて、あからさまではなく治安的観点とか、あるいは政権の思惑を踏まえたかたちとか、いくつかに分かれる。

 まず、青少年保護を名目として、いろいろな規制がなされていく。青少年保護と言うと社会が思考停止してしまう。しかし、内容をよく吟味すると、子どもたちを保護するよりも、今の政権にとってよからぬ表現を規制するのが本質だったりする。
 たとえば、児童ポルノ法改正が2014年6月に成立した。ミソは何か――。1999年旧法でやりたかったが、やれなかったことが2つある。1つは、児童ポルノ保有するという単純所持だけで犯罪とし処罰すること、もう1つは、漫画、創作物の規制だ。この2つが従来除かれていた。子どもの性的虐待、人権侵害から保護するのが法益なので、存在するその人が写っていない物は規制の対象にならない。漫画というのは、性的虐待や人権侵害の対象者は架空の創作物なので、児童ポルノの対象にならないはずだが、規制当局は規制したい。東京都が青少年条例でやろうとして反対にあった。そこで、青少年という年齢規制をやめて漫画規制だけが残った。それを今回の児童ポルノ法改正により国でやろうとしたかったのだが、いかんせん漫画家や表現者の反対が強いこともありこの漫画規制は降ろして、単純所持罪だけを入れた。単純所持には問題があり、冤罪になる可能性や、謀略で勝手に送りつけられる恐れもある。民主党は寝返って、自民党と一緒に一気に成立させてしまった。
 もう1つは、青少年健全育成基本法案を準備中。これは基本法なので、大きな枠組みで漫画が入ってくると危惧している。

<人種差別撤廃法案に潜む表現規制の危険>

 田島 次は、人権差別を理由として、表現活動を規制していく。一番は人権擁護法案というやり方だが、メディアも規制対象に入れるというので批判が出てくる。政府は本当はやりたい。裁判所とは別に、行政機関に新たな人権救済の仕組みをつくりたい。人権侵害の対象として、表現活動もメディアも入れている。民主党政権末期に、新たな行政機関をつくる人権委員会設置法案が出されて、1回も審議されずに廃案になった。これを本当にやりたいが、反対が強くてすぐには無理なので、今準備されているのは人種差別撤廃法案。そのなかに、差別助長行為を禁止対象にすることが入っている。ある特定の人に向けた人権侵害の表現行為を規制するだけでなく、相手が特定されない不特定多数に差別を助長するような表現も禁止の対象にするもので、ヘイトスピーチという大変な問題を何とかするということと関わらせて、提案が進んでいる。自民党も賛成の方向に進みそうだ。つくってしまう可能性があり、心配している。

 デモ規制というダイレクトな規制を当面しないと言われているが、政府は、本当はつくりたい。自民党石破茂元幹事長はデモをテロだとブログで書いて強く批判されたが、ある政治家たちは、とくに自民党の政治家は、かなり共通の認識を持っている。秘密保護法反対や原発反対の国民が国会周辺でデモや声を上げるのが嫌で嫌で仕方ない、何とかしてデモそのものを叩き潰したいという思いがある。だから、おそらく何かの機会があれば出してくる。現行法としては1回も活用されていないが、国会周辺での静穏保持のための規制法はすでにあるのに、輪をかけてつくろうとしている。
 これらは、ほんの一部だが、次々に出てくる

<2013年が転機になった>

 ――日本が、国の方向転換がかなり進んでいる…。

 田島 方向転換が進んでいることを考える時、2013年は、結論から言うと、日本の情報、言論のあり方から見た時に、転機、起点になった年だった。

 第1に、秘密保護法が、強行採決を繰り返し、国民の批判が大きくても押し切って、成立した。そして2014年12月10日施行された。
 秘密保護法は、国の極めて重要な情報を秘匿する法律だ。国の情報のうち4分野、(1)軍事的情報、防衛に関する情報、(2)外交に関する情報、(3)特定有害活動の防止に関する情報、(4)テロリズム防止に関する情報――という、我々にとって極めて大事な情報を行政の一存で特定秘密に指定して、漏らしたり入手したり、それらを働きかける行為を重罰で処罰する。我々にとって重要な国の情報を秘匿し、国民の目に出さない。出たら厳罰で処罰する仕組みができた。役所の一存で特定秘密と名前を付けて出さない、しかも出さない情報は広範囲に秘匿できる。大事な情報が出なければ、国民が国の重要な問題についてどうやって判断するのか。判断のもとになる情報が隠されたらどういう議論ができるのかという話になる。

国会議事堂 第2に、共通番号法が2013年前半にできた。住基ネットの仕組みをベースにして、1人ひとりにとって重要な個人情報である税とか社会保障に関する情報を別々に管理するのではなく、寄せ集めて突合して、国民1人ひとりに番号を付けて、一元的に管理できる仕組みができてしまった。違う情報を全部串刺しにして、コンピュータで番号付で管理できることになれば、ある人がどういう人なのか、所得金額、社会保障の給付はどれだけなのか、介護保険の負担・給付はどれだけなのかわかってしまう。将来は、医療という非常にセンシティブな情報も付加されるかもしれない。
 我々の個人情報を国が管理するのはやむを得ないが、国民1人ひとりに番号をつけ、他の領域や分野にまたがる情報をひとまとめにしてコンピュータで一元的に管理して、国民1人ひとりが何者かピンポイントでわかるというところまで委ねたつもりはないと言わざるを得ない。そういう仕組みができた。過剰な情報の国家管理、個人がどういう人間かわかるようなことまで情報を管理する仕組みを国に委ねていいのか。国民の情報を過剰に、番号付で収集管理する枠組みができている。
 住基ネットは、基本情報に番号を振って収集管理するもので、性別、生年月日、離婚歴なども基本的に重要なプライバシーであり、行政に番号付で委ねていいのかという問題があったが、今回の共通番号法住基ネットの比ではない。一段と個人の大事な情報の管理が国家によって進められる。住基ネットは、国の事務ではなく地方の事務と考えられていたので、自治体が離脱するのが可能だったが、共通番号は国の事務なので自治体の離脱はありえない。個々人が嫌だから離脱することは認められていない。本来は、プライバシーは、自己決定権という考え方だが、そういう権利は保障されていない。勝手に、国が個人の大事な情報を収集管理する。市民監視のもう1つの性格として、医療、社会保障の膨大な情報を共通背番号制で一括入手しようとしている。

 2つを合わせて考えると、市民の大事な個人情報は過剰に収集管理し、国の大事な情報は秘匿する。国が、その手足となる役人が情報を独占する枠組みをつくってしまったのが、2013年だと考えられる。言論、表現の自由にとって非常に重要な歴史的な年だった。

<意見対立の決着をめざした「99年国会」>

 田島 最後の最後は、憲法改正して、憲法21条の表現の自由に制限を付ける。壮大な言論統制、市民監視という大きな方向で体系的な立場からの規制がやられていこうとしている。

 そのなかでもう1つ言えば、1999年が極めて重要な年だった。「99年国会」を振り返ると、盗聴法が市民監視の仕組みとして成立した。通信の自由は、表現の自由憲法の保障する人権だという位置づけで、本来本人の同意なしに盗聴できない。憲法違反だが、テロや組織犯罪を根絶するためには「有力な捜査手法の1つで必要」と法務省が主張した。

 戦後、日本は敗戦で民主的な社会として出発したが、大事な問題について国民の意思が全部一致していたわけではなく、いくつか対立する論点が根深くあった。
 日の丸・君が代をどうするのかがその1つだ。かなり根深く、太平洋戦争の記憶があるだけでなく、侵略と不可分に結びつく。戦前、主権者は天皇であり、大元帥の戦争責任にもかかわり、民主国家にふさわしくないと思う人が相当数いた。
 電話盗聴の是非をめぐっても、弁護士、市民運動家は、憲法の保障する通信の秘密を簡単に破っていいのかと批判し、根深い対立があった。
 こうした意見の対立があるなかで決着をつけようとしたのが「99年国会」だった。日の丸・君が代、盗聴法、住基ネットの根拠を定めた住民基本台帳法改正。戦後積み残した問題を一気にどちらかの立場で決着を付けた。そのため国会が長期間延長され、お盆直前まで審議された。

 そういう対立のあるなかで乱暴な提案であり反対も強いので、盗聴法は、盗聴をなんでも合法化することができずに、限定した内容で、限られた犯罪に対し令状を取って認める内容だった。警察としては、法律の条文どおりの運用ではほとんど使えない、うまく活用できない、縛られたかたちになった。後で述べるが、当初の組織犯罪の4類型から、振り込め詐欺が社会問題になるなどの背景から、現在は、詐欺、殺人、児童ポルノまで拡大することなどなどが検討され、この改正が通常国会に出されようとしている。




(4)2015年4月10日07:00

有事法制準備も進む>

 ――秘密保護法は、戦争できる方向と同時進行だという話だが、今どこまで進んできたのか。

office9 田島 目の前にある状況だけでなく、戦争ができる他の枠組みも着々とできている。それは、有事法制の仕組みだ。
 有事法制論議は2001年の9.11テロの時に行なわれた。9.11の後、小泉純一郎首相(当時)が「テロとの戦いをすすめるためには有事法制をつくらないといけない」と述べるとともに、「日本の国家機密を保護する方向に向かわないといけない」と言った。有事法制は、1970年代の末に研究という名目で検討が進められたが、法制化が現実化するという状況ではなかった。また、1980年代半ばに国家秘密法案が提案されて、国民の強い反対があって、その時は法律にならなかった。
 時期をみていて、条件があったらやると待ち構えていたら、9.11が起きて、絶好のチャンスだった。大変なテロに対して、有事法制を整備しないといけないし、秘密を保護しないといけないでしょうという方向で何ができたかというと、自衛隊法を改正し、防衛秘密について特別な保護の仕組みを別途つくった。防衛秘密法制と呼ばれている。実は、秘密保護法のミニチュア版がもうできている。国家秘密のなかに、普通の秘密と特別な秘密を分けて、防衛秘密は普通の秘密ではなくて、特別な秘密として、普通の公務員が漏らした場合は1年の懲役なのを5倍に引き上げて5年という厳罰にした。秘密保護法の枠組みも部分的にできていた。

 有事法制というのは、ひとたび武力攻撃の事態が生じた時に特別の体制を組むというもので、まさに戦争を想定した仕組みだ。そういうことができる仕組みがないと、戦争することはできない。たとえば、戦車を一般道で最優先に通行させるとか、他人が所有している建物を外敵から守るために障害になるので取り壊すとか、そういう仕組みは戦争をする受け皿になる。戦前は、戦争するのを前提にした国で、軍隊も認められていたし、そういう仕組みもあった。しかし、憲法9条のもとで戦争しない、戦争のための軍隊を持たないとうたっているにもかかわらず、戦争をする前提条件の有事法制をつくるというのは、かなり大きな転換点だ。
 実際に、2003年の段階で武力攻撃事態法ができ、その後、国民保護法ができ、一連の有事法制が整っている。そういうなかで、メディアの一角である放送局は、有事法制上「指定公共機関」と指定され、政府の有事体制込みこまれることになった。放送局は、政府による警報や避難の指示、緊急放送を命じられ、義務付けられる対象になった。
 2004年には、本来海を渡らない、自国を守るという名目で考えられていた自衛隊武装して、イラクに派遣された。目的は人道復興支援とされていたが、武器を持ってイラクに行き、活動をしたのは、大きな転換点になった。戦争する枠組みが少しずつつくられてきて、それでもなかなか完成しない、さらなる枠組みが必要だ。そのために集団的自衛権を認める、武器輸出は禁止ではなく、原則認める。国際兵器見本市で、日本企業が兵器や武器技術を積極的に売るようになっている。

<言論の統制や表現の規制、市民監視の強化へ>

 田島 戦争できる体制が着々と構築されているとすれば、次に何が必要になるか。たとえば、戦争を容認したり参加したり進めたり軍事力を強めることに対しさまざまな批判、抵抗を想定した時、自由を認めちゃいかんとなる。そこで、日本が戦争する国に向かっていることを前提にしたら、ある意味、必然的に言論の統制や表現の規制とか、言論の自由表現の自由を狭めていく方向に向かわざるを得ない。さらに、言論、表現だけでなく、日常的な市民の監視が必要になってくる。

 また、戦争をやるとなったら、自衛隊だけで担いきれるか。ますます国の方向が現実に戦争をすることになれば、自衛隊員であっても、「戦争のために自衛隊に入っているのではありません」という人もいて、自衛隊員確保が難しい状況になると私はみている。自衛隊だけでは不十分だという可能性は高い。自衛隊員に志願する人が足りないとなったら、別の形で戦争する人たちを調達しないといけなくなる。そういう人がどこにいるのか、何歳の男性がどこにいるのかという国民の状態を把握して、市民の動向を把握し、市民の動向を監視する方向が出てくる。埼玉の話ですが、高校生に自衛隊の勧誘が行われている。自衛官の募集のために住基ネットが有力な元資料になる。実際に住基ネットを活用しているという報告が出ている。住民の基本的な情報や市民がどういうかたちで移動したりどんなことをやっているかという監視を強める方向が出てくる。

 我々の国がそういう方向に向かっているということは、軍隊や戦争の是非だけではなく、我々の自由や人権に深く関わるようなさまざまな重要な問題が出てくるし、現に進められている。



(5)2015年4月13日07:02

<2013年が転機になった>

 ――日本が、国の方向転換がかなり進んでいる…。

 田島 方向転換が進んでいることを考える時、2013年は、結論から言うと、日本の情報、言論のあり方から見た時に、転機、起点になった年だった。

 第1に、秘密保護法が、強行採決を繰り返し、国民の批判が大きくても押し切って、成立した。そして2014年12月10日施行された。
 秘密保護法は、国の極めて重要な情報を秘匿する法律だ。国の情報のうち4分野、(1)軍事的情報、防衛に関する情報、(2)外交に関する情報、(3)特定有害活動の防止に関する情報、(4)テロリズム防止に関する情報――という、我々にとって極めて大事な情報を行政の一存で特定秘密に指定して、漏らしたり入手したり、それらを働きかける行為を重罰で処罰する。我々にとって重要な国の情報を秘匿し、国民の目に出さない。出たら厳罰で処罰する仕組みができた。役所の一存で特定秘密と名前を付けて出さない、しかも出さない情報は広範囲に秘匿できる。大事な情報が出なければ、国民が国の重要な問題についてどうやって判断するのか。判断のもとになる情報が隠されたらどういう議論ができるのかという話になる。

国会議事堂 第2に、共通番号法が2013年前半にできた。住基ネットの仕組みをベースにして、1人ひとりにとって重要な個人情報である税とか社会保障に関する情報を別々に管理するのではなく、寄せ集めて突合して、国民1人ひとりに番号を付けて、一元的に管理できる仕組みができてしまった。違う情報を全部串刺しにして、コンピュータで番号付で管理できることになれば、ある人がどういう人なのか、所得金額、社会保障の給付はどれだけなのか、介護保険の負担・給付はどれだけなのかわかってしまう。将来は、医療という非常にセンシティブな情報も付加されるかもしれない。
 我々の個人情報を国が管理するのはやむを得ないが、国民1人ひとりに番号をつけ、他の領域や分野にまたがる情報をひとまとめにしてコンピュータで一元的に管理して、国民1人ひとりが何者かピンポイントでわかるというところまで委ねたつもりはないと言わざるを得ない。そういう仕組みができた。過剰な情報の国家管理、個人がどういう人間かわかるようなことまで情報を管理する仕組みを国に委ねていいのか。国民の情報を過剰に、番号付で収集管理する枠組みができている。
 住基ネットは、基本情報に番号を振って収集管理するもので、性別、生年月日、離婚歴なども基本的に重要なプライバシーであり、行政に番号付で委ねていいのかという問題があったが、今回の共通番号法住基ネットの比ではない。一段と個人の大事な情報の管理が国家によって進められる。住基ネットは、国の事務ではなく地方の事務と考えられていたので、自治体が離脱するのが可能だったが、共通番号は国の事務なので自治体の離脱はありえない。個々人が嫌だから離脱することは認められていない。本来は、プライバシーは、自己決定権という考え方だが、そういう権利は保障されていない。勝手に、国が個人の大事な情報を収集管理する。市民監視のもう1つの性格として、医療、社会保障の膨大な情報を共通背番号制で一括入手しようとしている。

 2つを合わせて考えると、市民の大事な個人情報は過剰に収集管理し、国の大事な情報は秘匿する。国が、その手足となる役人が情報を独占する枠組みをつくってしまったのが、2013年だと考えられる。言論、表現の自由にとって非常に重要な歴史的な年だった。

<意見対立の決着をめざした「99年国会」>

 田島 最後の最後は、憲法改正して、憲法21条の表現の自由に制限を付ける。壮大な言論統制、市民監視という大きな方向で体系的な立場からの規制がやられていこうとしている。

 そのなかでもう1つ言えば、1999年が極めて重要な年だった。「99年国会」を振り返ると、盗聴法が市民監視の仕組みとして成立した。通信の自由は、表現の自由憲法の保障する人権だという位置づけで、本来本人の同意なしに盗聴できない。憲法違反だが、テロや組織犯罪を根絶するためには「有力な捜査手法の1つで必要」と法務省が主張した。

 戦後、日本は敗戦で民主的な社会として出発したが、大事な問題について国民の意思が全部一致していたわけではなく、いくつか対立する論点が根深くあった。
 日の丸・君が代をどうするのかがその1つだ。かなり根深く、太平洋戦争の記憶があるだけでなく、侵略と不可分に結びつく。戦前、主権者は天皇であり、大元帥の戦争責任にもかかわり、民主国家にふさわしくないと思う人が相当数いた。
 電話盗聴の是非をめぐっても、弁護士、市民運動家は、憲法の保障する通信の秘密を簡単に破っていいのかと批判し、根深い対立があった。
 こうした意見の対立があるなかで決着をつけようとしたのが「99年国会」だった。日の丸・君が代、盗聴法、住基ネットの根拠を定めた住民基本台帳法改正。戦後積み残した問題を一気にどちらかの立場で決着を付けた。そのため国会が長期間延長され、お盆直前まで審議された。

 そういう対立のあるなかで乱暴な提案であり反対も強いので、盗聴法は、盗聴をなんでも合法化することができずに、限定した内容で、限られた犯罪に対し令状を取って認める内容だった。警察としては、法律の条文どおりの運用ではほとんど使えない、うまく活用できない、縛られたかたちになった。後で述べるが、当初の組織犯罪の4類型から、振り込め詐欺が社会問題になるなどの背景から、現在は、詐欺、殺人、児童ポルノまで拡大することなどなどが検討され、この改正が通常国会に出されようとしている。




(6)2015年4月14日09:34
<秘密保護法の次に何が提案されようとしているか>

 ――言論の統制や表現の規制への方向として、具体的には何が懸念されるのか。

 田島 秘密保護法ができた後に、何が待ち構えているのか。秘密保護法後、想定されている、あるいは提起されている動きは、すでに述べたように私が危機感をあおっているだけならまだいいが、すでに具体的に準備されている。

児童ポルノ法改正と青少年健全育成基本法案>

hito_img 田島 第1に、表現規制、言論規制、メディア統制の提案が予定されている。
 秘密保護法で、情報の統制について基本的枠組みができた。それをベースに、情報のコントロール、規制をもっとやろうと準備しているのは、どういう方向から準備されているかというと、4〜5つある。言論、表現のダイレクトな取り締まりは、いろいろな理由をつけて、あからさまではなく治安的観点とか、あるいは政権の思惑を踏まえたかたちとか、いくつかに分かれる。

 まず、青少年保護を名目として、いろいろな規制がなされていく。青少年保護と言うと社会が思考停止してしまう。しかし、内容をよく吟味すると、子どもたちを保護するよりも、今の政権にとってよからぬ表現を規制するのが本質だったりする。
 たとえば、児童ポルノ法改正が2014年6月に成立した。ミソは何か――。1999年旧法でやりたかったが、やれなかったことが2つある。1つは、児童ポルノ保有するという単純所持だけで犯罪とし処罰すること、もう1つは、漫画、創作物の規制だ。この2つが従来除かれていた。子どもの性的虐待、人権侵害から保護するのが法益なので、存在するその人が写っていない物は規制の対象にならない。漫画というのは、性的虐待や人権侵害の対象者は架空の創作物なので、児童ポルノの対象にならないはずだが、規制当局は規制したい。東京都が青少年条例でやろうとして反対にあった。そこで、青少年という年齢規制をやめて漫画規制だけが残った。それを今回の児童ポルノ法改正により国でやろうとしたかったのだが、いかんせん漫画家や表現者の反対が強いこともありこの漫画規制は降ろして、単純所持罪だけを入れた。単純所持には問題があり、冤罪になる可能性や、謀略で勝手に送りつけられる恐れもある。民主党は寝返って、自民党と一緒に一気に成立させてしまった。
 もう1つは、青少年健全育成基本法案を準備中。これは基本法なので、大きな枠組みで漫画が入ってくると危惧している。

<人種差別撤廃法案に潜む表現規制の危険>

 田島 次は、人権差別を理由として、表現活動を規制していく。一番は人権擁護法案というやり方だが、メディアも規制対象に入れるというので批判が出てくる。政府は本当はやりたい。裁判所とは別に、行政機関に新たな人権救済の仕組みをつくりたい。人権侵害の対象として、表現活動もメディアも入れている。民主党政権末期に、新たな行政機関をつくる人権委員会設置法案が出されて、1回も審議されずに廃案になった。これを本当にやりたいが、反対が強くてすぐには無理なので、今準備されているのは人種差別撤廃法案。そのなかに、差別助長行為を禁止対象にすることが入っている。ある特定の人に向けた人権侵害の表現行為を規制するだけでなく、相手が特定されない不特定多数に差別を助長するような表現も禁止の対象にするもので、ヘイトスピーチという大変な問題を何とかするということと関わらせて、提案が進んでいる。自民党も賛成の方向に進みそうだ。つくってしまう可能性があり、心配している。

 デモ規制というダイレクトな規制を当面しないと言われているが、政府は、本当はつくりたい。自民党石破茂元幹事長はデモをテロだとブログで書いて強く批判されたが、ある政治家たちは、とくに自民党の政治家は、かなり共通の認識を持っている。秘密保護法反対や原発反対の国民が国会周辺でデモや声を上げるのが嫌で嫌で仕方ない、何とかしてデモそのものを叩き潰したいという思いがある。だから、おそらく何かの機会があれば出してくる。現行法としては1回も活用されていないが、国会周辺での静穏保持のための規制法はすでにあるのに、輪をかけてつくろうとしている。
 これらは、ほんの一部だが、次々に出てくる。