Chagall



唯一私のもの

唯一私のもの
それは私の魂のなかにある国
私はパスポートもなく
自分の家に入るようにそこに入る
その国は私の悲しみと
私の孤独を知っている
そして私を寝かしつけ
よい香りのする石でおおう

心のなかの庭に花が咲く
想像上の花々が
通りは私のもの
けれどそこに家はない
家々は子どもの頃に破壊され
住民たちは住むところを探して
空中をさすらう
彼らは私の魂のなかに住む

だから私は
私のなかの太陽がかすかに輝けば微笑み
夜半の小雨のように涙を流す
かつて私には2つの頭があった
2つの顔は
愛の露におおわれ
薔薇の香水のように消えてなくなった

今ではこんなふうに思える
たとへ後ろに退くときも
そびえ立つ門に向かって
前進しているのではないかしら
門の後ろには壁が広がり
そこには静まった雷鳴と
砕けた稲妻が眠っている

唯一私のもの
それは私の魂のなかにある国


 マルク・シャガール
詩集 「もし私の太陽が輝いたなら」(1945〜50)