イスラエル―パレスチナ


   
http://www.youtube.com/watch?v=6UP-D_MtZt0
   
http://www.youtube.com/watch?v=aKucPh9xHtM
    



  身分証明書

       マフムード・ダルウィーシュ
        (訳・尾崎芙紀)

書きとめてくれ、
おれは アラブ人、
身分証明書番号は 五〇、〇〇〇。
子供の数は 八人、
九番目が
  この夏 生まれる。
気にさわったかね?

書きとめてくれ、
おれは アラブ人、
仲間といっしょに石切場で働く。
子供の数は 八人。
その子供らのために
  ひとかたまりのパンを
  身にまとうものを
  学校の練習帳を
おれは 岩山から切り出しているが、
あんたがたの戸口にたって
ほどこしをねだるよりは ずっとましだ。
あんたがたの門前にたって
身をかがめるよりは ずっとましだ。
気にさわったかね?

書きとめてくれ、
おれは アラブ人。
おれの名前に 苗字なんぞない。
ものみな 怒りをはじけさせて生きる片田舎では
おれは がまんづよい男だ。
  おれの根っ子は
  ずっとむかしから
  時代が花ひらくそのまえから
  杉の木やオリーブの木よりもまえから
  ……生えている草よりもまえから
根をおろしていたのだ。

おやじは
  百姓の家の出だ、
  高貴な血筋とは わけがちがう。
じいさんは
  百姓だった、
  家柄も 系図も なにもない!

おれの住まいは
  枝切れとワラでできた
  番人小屋。
おれの社会的地位が 気に入ったかね?
おれの名前には 苗字なんぞない。

書きとめてくれ、
おれは アラブ人、
髪の色 まっ黒、
眼の色 茶いろ。
身なりの特徴、
  カフィヤのうえに巻いた
  頭上の ラクダの毛のかぶり紐
  手のひらは 岩みたいにかたいから
  ふれたとたん なんでもきずがつく。
  なによりの好物は
  オリーブ油に 香料(タイム)。
居所、
  おれはずっと向こうの忘れられた村からきた。
  その道すじに 名前はないが
  畑や石切場にいるそこの男たちは
  みんな コミュニズムを愛している!
気にさわったかね?

書きとめてくれ、
おれは アラブ人。
あんたがたは じいさん以来のブドウ畑と
おれが耕していた区割の土地を ふんだくった、
おれと子供たちみんなで耕していた土地だ。
あんたがたは おれと子供たちに また孫たちみんなに
この岩山のほか 何ものこしはしなかった。
……そうだ、あんたがたの政府は
うわさできくように その岩山までとりあげるつもりなのか?
それなら それでけっこう。
書きとめてくれ、最初のページの真先に。
  おれは 民衆を憎まない。
  おれは だれからも盗まない。
けれどもだ、
  もしも おれが怒ったなら
  おれは わが略奪者の肉を食ってやる。
気をつけろ、おれの空きっ腹に、
気をつけろ、おれのむかっ腹に。


  *カフィヤ=頭にかぶるアラブ風の布。そのうえをかぶり紐で巻く。