洪

  


   

     後生の 子の目のなかに

 大洪水の記憶もようやく落ち着いたころ、一匹の兎が岩穴の中を ゆらめく釣鐘草のなかに戯れ
 罠に落ちた 蜘蛛の網目に獲物を捕らえた 虹の橋にかかり祈りを ああ人目を避けた数々の宝石が 
 不躾の大道 肉屋の店店が露店をつらねた 人々はそのとりどりの 版画の暖簾をくぐりぬけていく
 はるか高く けじめを付けて重なる海を  小舟を曳いたり    青髭の家では 血も流れた
 屠殺場にも 曲馬場にも 窓はみな神の  印璽インロウに蒼ざめた 血とミルクが流れ出し 
 胡散な奴らが家を建てた
 冷やし珈琲 の常連客が 煙草をふかし  未だきらきらした硝子張りの大邸宅で 子らが喪を纏い
 不可思議な 影を見詰め ていた 


 大洪水のあとの戸口を破り 音を立て 避難の広場で子らは沛然たる驟雨の下で火をくべながら 
 四方の風見や鐘楼の鶏口に 腕を振った 
 影絵にゆれる××夫人は 南アルプスの山中に ピアノを据えた
 踊る 太く静かな息を吐く ほのかな いざり
 幾万もの途絶えた息を 祭壇の火が ほこらしく 燃え盛り、
  
   http://www.youtube.com/watch?v=1A6BfyhFSVQ&feature=related