門出に
門出に
さぁ、遠出の街をゆくりゆっくりせりあがる山のはの真白なくもは、愛宕もかぶさる横つく小雪を、遠くに降らせている
ひるすぎ半ばの冷え込む陽だまりの木の影を冬燕が飛び交う、黒いヒトミのまつ毛の内にひっきりなく舞っている
夜昼にきざす薄紅を頬に染め、長く細い目尻の皺も水化粧で彩られ、空と地の顔(かんばせ)を祝うことなく一つで重ね、表参道を歩いている
唯ゆいが刺す肌の雨に晒され、始めてくぐり抜けた門がある、それぞれがゆくりゆっくりとくぐり抜ければ、一日一歳年を迎え入れる
さぁ、門出の街よ
もう、二度とは戻るまい
あしたの街がむこうから
やってくるのだから
いきつく自然がむこうから
やってくるのだから
すぎゆく背をふりむく無く
――影を踏まず
こがれた天にあおむく無く
――空を踏まず
こうべを落しうつむく無く
ただ土を踏む
ただ心をささえていればただ、目の前をササとくぐり抜けられるもの、もう二度とは後戻ることのないもの、もう二度とは後戻ることのないもの