アルフォンシーナと海

 
   アルゼンチン
 
ストルニィ(アルフォンシーナ Storni, Alfonsina 1892-)
 92年にアルゼンチンに移住したイタリア系スイス人を両親にスイスで生まれ、96年にアルゼンチンに渡った。女工、小学校教師をしながら、男に虐げられる女の愛への憧れ、絶望、挫折をテーマとした恋愛詩を収めた九つの詩集を18年の『甘美な傷』から25年の『黄土』まで迸るかのように出版した。世界の主である男への嫌悪感、挑戦を込めながら、女の激しい春の永遠に花開く肉体をエロス豊かに歌いあげた。34年の『七つの水溜の世界』においてエロチシズムを捨てると同時に詩におけるモデルニスモの形態も放棄した。
 人間的に生きようとするひたむきな生き様に共感する読者も多く文学的名声を得たが、より自由を目指して新分野を開拓していく。しかし、リズム的に固く、知的で苦悩に満ちた作品に、それまでの読者は離れていった。38年に最後の詩集『デスマスクとクローバー』を出版し、その最後に予告するかのように「私は眠りにつく」という簡素で穏やかなソネットが収められた。この直後、"海に身を投げます"との書き置きを残して愛するマル・デル・プラタの海に身を投げた。スペイン語で書かれた抒情詩の中で、最も女性的エロスにあふれた作品を残した詩人。

メルセデス・ソーサ(アルゼンチン)
http://www.youtube.com/watch?v=ZzhpTA95Bnc&feature=related


タニア・リベルター(mexico)
http://www.youtube.com/watch?v=Ocei35hDyX4&feature=related

パシオン・ベガ(スペイン)
http://www.youtube.com/watch?v=3BIVwPvKIpQ&feature=related


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  海が撫でるやわらかな砂にのこされた

  彼女の小さな足跡はもう戻らない

  水底へ至る 痛みと静寂だけの小さな道跡

  水泡へと至る 痛みと静寂だけの小さな道跡

  神は知っている

  苦悩はあなたに付き添っていた

  あなたの声は古い痛みにかしいでいた

  深海の渦巻き貝のささやきに耳を傾ける

  深く暗い海の渦巻き貝が歌う歌

  アルフォンシーナ あなたは孤独とともに行く

  新たな詩を探しに行ってしまった

  風の古びた声 潮の古びた声が

  あなたの魂を口説き運び去った

  そうやって夢の中のように

  海のねむりを身にまとうアルフォンシーナ

  海藻と珊瑚の道を

  5人の愛らしい人魚たちがあなたを連れて行く

  ほのかに光るタツノオトシゴが彼女のまわりをまあるく囲み

  海の住人たちは彼女のかたわらで遊んでいる

  もうすこし灯りをおとして

  1人にしておいて

  平穏の中 乳飲み子のように眠るから

  呼ばれても ここにいると言わないで

  アルフォンシーナは戻らないと言って

  呼ばれても 絶対にここにいると言わないで

  わたしは戻らなかったと言って


  アルフォンシーナ あなたは行ってしまった・・・


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