ブライアン・イーノの手紙

http://davidbyrne.com/gaza-and-the-loss-of-civilization


【みんなへ/ブライアン・イーノ

この手紙で暗黙のルールを破ることになるが、これ以上黙っていられない。

今日、私はパレスチナの男性が、
プラスティック製の肉用の箱を抱えて泣いている写真をみた。

それは彼の息子だ。

彼の体はイスラエルのミサイル攻撃でばらばらにされた。

明らかに新しい武器、
「フレシェット爆弾」だ。

どんなものか知っていると思うが、
小さな鉄製のダーツ状のものを
爆薬の周りに詰め込んだもの、
それが人間の肉を引きちぎる。

少年の名前は、
ハメド・カリフ・アルナワスラ。

彼は4歳だった。

私はその袋の中が、
「自分の子どもだったらどう思うか?」、
と考えているのに気がついた。

そして今までになく、
怒りがこみ上げてきた。

アメリカでは何が起こっているんだ?

私自身の経験から、
ニュースがどれだけ偏っているか、
そしてこの話の片側について、
ほとんど耳にしていないことを知っている。

しかし、それがキリストの目的のためか?

答えは難しくない。

なぜアメリカは民族浄化の一方的な実行を、
盲目的に支援し続けるのか?

なぜだ?

私には理解出来ない。

AIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)の力について考えるのにはうんざりだ。

もしそうであるなら、
君たちの政府は根本的に腐っている。

いや、それが理由ではない。

しかし私はどうしたらいいのかわからないんだ。

私が知っていて好きなアメリカは、
同情にあふれ、
心が広く、
創造的で、
多様で、
忍耐強く、
寛大なものだ。

私の親しいアメリカ人の友人たちは
正にそれを体現している。

しかしアメリカは、
この酷い一方的な植民地主義の戦争を支援している。

私にはそんなことは出来ない。

君たちも出来ないことは知っている。

イスラエルを支援する人たちには
どうしてこういう言葉が耳に入らないんだ?

「自由」と「民主主義」の概念を
アイデンティティの基盤にしている国が、
「人種差別主義の神聖政治」を支持して、
金を使うのが、
どれだけ酷く見えるか判っているのか?

私は昨年、メリーとイスラエルへ行った。

彼女の姉はエルサレムのUNWRA(国際連合パレスチナ難民救済事業機関)で働いている。

案内をしてくれたのは彼女の夫で、
プロのガイドのパレスチナ人のシャディと、
イスラエルユダヤ人であるオレン・ヤコノビッチだ。

オレンはIDF(イスラエル国防軍 )から来た元少佐で、
パレスチナ人たちを殴るのを拒否するために公職を離れた。

彼ら二人の間で何か苦悩があるのに気がついた。

入植者たちが、
糞尿や使用済み生理ナプキンを、
パレスチナ人たちに投げつけるのを防ぐために、
パレスチナ人の家は、
ワイヤーや板を打ち付けてあった。

パレスチナ人の子どもたちが学校へいく途中で、
イスラエルの子どもが野球のバットで殴り、
それを親たちが囃し立てて笑っている。

村じゅうが脱出して洞穴で暮らしていると、
入植者がその土地にやってくる。

丘の上のイスラエルの入植者が、
ふもとのパレスチナ人の農地に下水を垂れ流す。

人種差別の「壁」だ。

検問所と、終わりのない毎日の侮辱。

私は考え続けた。

「なぜアメリカ人はこれを許容するんだ?」
「なぜこれをOKだと思うんだ?それとも知らないのか?」

平和へのプロセスについても
イスラエルはプロセスを望んでいるが、
平和は望んでいない。

「プロセス」によって入植者は土地を奪い、
入植地を作る。

パレスチナ人が感情を爆発させると、
最新鋭のミサイルや劣化ウラン弾で体を引き裂かれる。

それがイスラエルの「自衛の権利」だからだ(一方パレスチナ人は持っていない)。

入植者の民兵は、
こぶしを振り上げ、
他人のオリーブ畑を奪い、
軍はさらに酷いことをする。

ところで、彼らのほとんどは元々のイスラエル人ではない。

ロシア、
ウクライナ
モラヴィア
南アフリカ
そしてブルックリンから最近イスラエルへ来た「帰る権利」
を主張するユダヤ人で、
土地に対して「神が与えた不可侵の権利だ」
との考えを持っている。

そしてアラブ人を、
「害虫」扱いしている。

ルイジアナの学校で過去にあった、「傲慢で恥ずべきレイシズム」とまったく同じだ。

それが私たちの税金が守っているカルチャーだ。

KKK(クー・クラックス・クラン )に送金しているのと同じだろう。

しかしこれよりも、
私を苦しめているのは、
もっと大きな構図だ。

好むと好まざると、
アメリカは「西側」を代表している。

そしてこの戦争を支持しているのが「西側」だ。

モラルと民主主義について声高く語っているのに。

啓発的な西側の文化の市民的な達成のすべてが、
狂気のムッラーの歓喜と偽善のために、
損なわれることを危惧している。

戦争にモラルの正当性はない。

現実的な価値はない。

キッシンジャーの’Realpolitik’(現実政策)の感覚はない。

戦争は私たちを悪に見せるだけだ。

これが君たちすべてを不快にするのは申し訳なく思う。

君たちは忙しいし、
政治にアレルギーもあるだろう。

しかし、これは政治の問題ではない。

私たちが作り上げた、
市民的な価値を破壊しているのが、
私たち自身なんだ。

この手紙には、
レトリックではない。
もしも言葉巧みなレトリックで、
済めばよかったのだが。

ブライアン・イーノ

(2014年7月25日にブライアン・イーノデヴィッド・バーンへ宛てた書簡より)

http://rock-iine.blog.so-net.ne.jp/2014-08-01-2

注):AIPAC(エイパック)は、アメリカ合衆国において強固な米以関係を維持することを目的とするロビイスト団体、利益団体である。アメリカにおいて、全米ライフル協会をも上回る、もっとも影響力のあるロビイ団体とする報道もある。

注):リアルポリティークとは国際政治の場面で、経済力、軍事力の現状に鑑み、いちばん現実的かつ合理的な道を、先入観、前例、慣習にとらわれることなく模索するような外交を指します。つまりイデオロギー(政治理念)に基づく外交戦略の対極に位置する概念です。

注):KKKは、アメリカの秘密結社、白人至上主義団体。

注):ムッラーとは、広くイスラム圏では尊称として知られているが、最近はインターネット上で、テロリスト、偏屈者、熱狂者と共に分類され、乱用がみられる。